薺句帖

余生の洩らし言、「薺」とは、「なずな」あのペンペングサであります。誤字脱字の常習ゆえ、気になさる方にはお勧めできません。

煮込み雑煮の話

 

 我が家の元旦の雑煮は昆布出汁に、鶏肉つまりかしわと椎茸の吸い物へ、ちょっと焦げ目をつけた焼き餅を投入する、茹でた大根と人参をそえて、三つ葉を散らす。これは、自分が生まれ育ってきた家の雑煮である。

 ところが、妻の実家では、里芋・牛蒡・人参・小松菜・椎茸・人参というような野菜と餅をいっしょに煮込んである雑煮だった。妻は当然のことながら、この煮込み雑煮に愛着がある。

 結婚当初、いまだったら決して口になどしないが、妻に向かって、そちらの実家の雑煮は、どうも雑煮として承認しがたいといってしまったのだ。云うまで無く妻は腹を立て、しばらくは気まずいかったのだが、彼女はそのことを忘れていない。

 確かに元旦は焼いた餅であるが、二日目は煮込みである。以後折に触れて煮込み雑煮がでる。我が実家流の雑煮はいっさい食卓に登場しない。

 根に持っているのだ。

 定年退職をして、私が我が家の料理番を引き受けるまで、三〇年余り煮込み雑煮を食べてきたのだ。

 料理係を交代して以来、後片付けは妻の役目であるが、料理中はキッチンに近づいてこない。それだから、今度は心置きなく焼き餅雑煮を作れるようになったのだが、正月松の内の間、今日は簡単に雑煮にしておけという気分になると、なんと煮込み雑煮を自分から進んで作ってしまうのだ。

 元旦「ハレ」の雑煮は焼き餅、松の内とはいえ二日以降は「ケ」の雑煮として煮込みという我が家の伝統が、いつのまにかできあがっていたのである。

・・・・・・、ああ、恐ろしや。

 

 

   餅腹や何も求めないでいられそう   泡六