庭先の垣根に山茶花が今も咲いている。
花は赤、時折この花びらを啄んでいるヒヨドリを見かけた。
その内側に、人の背丈ほどのウツギが植えてある、その冬枯れ枝に、干からびた林檎が突刺してある。
これが、奇妙なのだ。
なぜに変かというと例年の寒の入り直前なら、ヒヨドリがやってきてきれいに片づけてくれているはずなのだ。
であるのに、年明けの今でも、こんな風に四五日前から寒風に晒されている。
今年、ヒヨドリの姿がない。
あのヒヨドリはどうしたのだろう。
餌が乏しいだろうこの時期、ヒヨドリは向かいの家の柿の木の梢から、ウツギの枝に出現するリンゴや蜜柑を辛抱強く待っていて、見つけるやいなや一目散に飛来してきたものだった。
そんなヒヨドリの姿が見えなくなる隙を狙って、スズメたちがおこぼれを当てにしてやってくる、すると、どこからともなく鋭く鳴きながら、追っ払いにやってくるのであった。
自分と妻が、いつ頃から傷みのきたリンゴや蜜柑を、こんな風に枝にさし始めたかは忘れたが、少なくとも五六年は経っていよう。
その間毎年食べにやってきたヒヨドリが同一の個体であったかどうか、見分けはつかない。そうではあるが、毎年かかさずにやって来ていたのだった。
妻は、このヒヨドリをあまり快く思っていなくて、性格が悪いから嫌い、という。
確かに面つき目つきに愛嬌がない、鳴き声も威嚇的だし、剣呑な感じがするのだが、ガラス越しに室内からよくよく観察すると、なかなかハンサムで精悍そうな奴なのだ。
鳴き声もけたたましいのだが、それも馴れればそう耳障りでもないし、さえずりことはないが、穏やかにぴーぴーと鳴くのは可愛いものだと小生は思う。
昨年の秋口まではヒヨドリは群れてけ仲間同士盛んに鳴き交わしていた。いつものように隣家の柿を啄みに来たかは、記憶は定かではないが、冬めいてくる頃からパタッと姿が消えた。
ヒヨドリは、定住する留鳥の仲間であるが、渡り鳥でもあるのだ。10月から11月にかけて日本各地で渡りをする群れが観察されるのだという。
そうであれば、妻が名付けた「ピースケ」は、旅に出たのだろうか。
渡り鳥として旅立ったのであれば、致し方ないのだが、ちょっと寂しい気がする。
山茶花の紅食らうは鵯ぞ 泡六