独身のアパート暮らしであった頃、銭湯というのはどうも落ち着けない気がして、必ず風呂付きの部屋を契約した。
ところが、無精者の自分は帰宅が不規則な事もあったが、毎晩風呂を沸かすことが酷く面倒に感じて、数日連続して風呂に入るのをサボったり、シャワーで間に合わせたりという暮らしぶりであった。
今振り返れば、まことに愚かなことであった。一手間で、どれほどあの張り詰めた気分を癒やすことができたか、今頃後悔しても仕方ないが。
年をとって、なおさらのように風呂好きになった。
食べるもの、着るもの、その他贅沢はいらない、ただ毎晩の風呂だけはたって願う、最期の日までと。
湯はぬるし口笛吹かん寒の宵 泡六
さて、そうは云っても、暗くなってから口笛を吹くと、魔物がやってくると言われていたが、・・・・。