薺句帖

余生の洩らし言、「薺」とは、「なずな」あのペンペングサであります。誤字脱字の常習ゆえ、気になさる方にはお勧めできません。

渇水・水を求めてさまよう・

7月29日 快晴。最高気温、38.2度。

 

〇午後2時、隣町の図書館へ行く。
 エンジン始動時の車外温度計が、44度とあった。
 図書館入館、少しの調べ物をして、それから、「蕪村全集」の書簡の巻を借り出した。そこで、来る途中で今日はこの町の夏祭り当日であると知ったので、ちょっ雰囲気でも見ておこうと、借りた本は車に置き、街の中心部へと歩き始めた。午後三時を少し回った頃だ。
 図書館から、交通規制が行われている、死語だろうが、所謂「ホコ天」のお祭りエリアまで、徒歩約10分。
 たった、それだけで、猛烈に喉が渇いた。乾いたどこころかジリジリと照りつける歩道上で、喉が渇きすぎてひりひりし始めた。
 自宅で昼飯を食べてから、ほとんど水分を摂取していないことに思い当たった。そうなると、乾きがいや増しに感じられてきた。水が欲しい。そかし、辺りを見廻すに、自動販売機が見えない。何処にも無い。
 仕方ないので、間違いが無いはずの駅前方向へ歩き始めた。道々の風景は、祭りの準備中のようであった。それなのにお祭りにつきものの露店がない飲み物買えず。
人々は、生き生きと動き回っているのに、その様子が遠くのように感じる。

 

 

 お祭りエリアの真ん中の交差点まで来ると、先ず右手15メートル前方に自販機発見、・あら、嬉しと、・・右折し突進、ところがなんと、硬貨の投入口がガムテープで塞いである。これは、あり得べきことかと、頭がふらついた。
 仕方なく、再度駅前を目指そうと戻りかけた所、交差点の先直進方向目と鼻の先約20メートル、自販機発見。立派な店構えの店先に設置されている。
 こんどこそ、急げ。
 自販機は確かに稼働していたのだが、価格設定がべらぼうだ、通常110円のあのペットボトルの水が、なんと150円、、喉は必死に水を要求しているのだが、根からの貧乏性、ぐっと思いとどまって、そのまま歩き始めた。暴利をむさぼる奴らの餌食になんかなるものかと、商人の良心は何処に消えたと呪った
 そこで、また歩く。なんとなく身体が宙に浮くような感じがし始めた。
 ふと、喫茶店がこの先にある事を思い出した。
のろのろの歩調であったが、ほどなく喫茶店の前まで来た、そこで又やっかいな別の「自分」が出しゃばってきた。「俺が欲しいのは、水だ、コーヒーでは無い。喫茶店で水ばかりがぶがぶ飲めるはずが無いではないか、水のおかわりだって、限度がある」と屁理屈を云うのだ。そう言われると、こんな時にまで優柔不断の本性が現れて、何故か、ふらふらっと喫茶店をスルー。
 それから、やっぱり駅前だと初心を思い出した。そうして、その場になって、なんとも駅に向かうには、遠回りしていることに気づいた。後悔した。
もう、主観的身体認識では、脱水症状態である。それなのに、なんで喫茶店に入らなかったと、合理的な自分がもそもそ言っている。
 照り返しのきつい歩道を行く、なるべく日陰を選んだが、極暑、露出部分肌は心なし赤く腫れているようだ。
 と、その時、ビルの谷間の駐車場脇に、ひっそりと立つ自販機発見。
 『水』も適正価格、即、購入。天は未だ我を見捨ててはおられなかった。
 飲んだ。
 一気に飲んだ。
 むせた。
 歩道の並木の蔭に立ち止まって、水分が体内に沁み通るのを待った。5分、10分ほど、そのままでいたが、駅前はもう目前、あそこのマクドナルドで涼もうと、ぼんやり思った。思えば、歩き出す。足取りは、ゾンビのようであったかも知れない。
店について、120円のアイスコーヒーsサイズを入手して、なんとなくこそこそした感じで窓際の席についた。それから、20分、ようやく人心地がついたのであった。

 さて、振り返って、多分こんな風に、小さな判断ミスが死を招くのだと、思うのであった。

 

 

 そうして、改めて、強く言いたい。

 


燃天や命は水でありにけり  泡六